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       右のおほいまうちぎみすまずなりにければ、かの昔おこせたりけるふみどもを、とりあつめて返すとてよみておくりける 藤原因香  
736   
   たのめこし  言の葉今は  かへしてむ  我が身ふるれば  置きどころなし
          
        詞書にある「右のおほいまうちぎみ」とは近院右大臣・源能有(よしあり)のこと。詞書の意味は「源能有が一緒に住まなくなったので、能有が昔よこした恋文を集めて返すことにした時に詠んだ」歌ということ。

  源能有は 898年に亡くなっており、899年に菅原道真が右大臣となり、道真左遷の後は 901年から源光(ひかる)が右大臣になっているので、古今和歌集成立の 905年頃のこととしては、「近院の右のおほいまうちぎみ」とあってもよさそうだが、この歌の直後に能有の返しがあるので省略したものか。

  歌の意味は、
今まで私に期待させてきた言葉ですが、もうお返しいたします、過去のものとなったこの身には置き所もありませんから、ということである。 「言の葉」の 「葉」と 「我が身」の 「実」を合わせているように見える。 「言の葉」が使われている歌の一覧は 688番の歌のページを参照。

  "たのめこし" の 「たのむ」は下二段活用の 「たのむ」で、「頼りにさせる・あてにさせる」ということ。 「たのむ」という言葉を使った歌の一覧については 613番の歌のページを参照。 "我が身ふるれば" の「ふるれ」は上二段活用の「古る」の已然形。 「こし」と 「ふる」からは、986番の「人ふるす 里をいとひて こしかども」という二条の歌が思い出される。 「古る」を使った歌の一覧については 248番の歌のページを参照。

  この因香の歌に対して次のような能有の 「受諾」の返しがついている。

 
737   
   今はとて  かへす言の葉  拾ひおきて  おのがものから  形見とや見む
     

( 2001/11/08 )   
(改 2004/02/25 )   
 
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