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       題しらず 清原深養父  
698   
   恋しとは  たが名づけけむ  ことならむ  死ぬとぞただに  言ふべかりける
          
     
  • ただに ・・・ そのまま
  
「恋し」なんて誰が名づけたのものなのだろう、「死ぬ」とストレートに言うべきだよ、という歌。歌というより普通の文章のように見える。ただ、 "恋し" を形容詞の 「恋し」と見ると意味が通りづらいので、これは 「恋死」という名詞のことのようにも思える。苦しみは同じなのだから 「恋死」なんてわざわざ言う必要はない、それほど 「恋しい」、だから 「恋し」も 「恋死」で 「死ぬ」も同じ、という論法か。 「恋死ぬ」という歌の一覧は 492番の歌のページを参照。

  「べかりける」は 「べかり+ける」で、推量の助動詞「べし」の連用形+回想・詠嘆の助動詞「けり」の連体形。 "死ぬとぞ""の 「ぞ」の係り結びで 「けり」が連体形になっている。 「〜べきだった/〜べきなのだ/〜にちがいない」という意味。 「べかりけり」という言葉を使った歌の一覧は 40番の歌のページを参照。

  「名づける」ということを言った歌には他に、453番の真静法師の「誰かわらびと 名づけそめけむ」という 「わらび」の物名の歌や、次の読人知らずの歌がある。

 
960   
   我が身から  うき世の中と  名づけつつ   人のためさへ  かなしかるらむ
     

( 2001/12/04 )   
(改 2004/03/09 )   
 
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