Top  > 古今和歌集の部屋  > 巻十三

       題しらず 小野小町  
658   
   夢ぢには  足も休めず  かよへども  うつつにひと目  見しごとはあらず
          
        夢の中ではせっせと足を運んで逢っているけれども、現実に一目見たことに比べれば味気ないものだ、という歌。一つ前の 657番の歌よりはわかりやすく、男の立場で詠ったものであろう。 "ひと目" に 「人目」が掛けられていて、「人目を避けて一目見た」という駄洒落かどうかは微妙である。

  "見しごと" (=かつて見た様子)という言葉を使った他の歌には、次のような友則の歌がある。

 
991   
   ふるさとは  見しごともあらず   斧の柄の  朽ちしところぞ  恋しかりける
     
        「足」という言葉からは、同じ小町の 623番の「かれなで海人の 足たゆくくる」という歌が思い出され、数多い夢での出逢いは現実の一目に劣る、ということは、「闇のうつつ」は 「確かな夢」と同じようなもの、と詠う次の歌に反論しているような感じでもある。

 
647   
   むばたまの  闇のうつつは  さだかなる  夢にいくらも    まさらざりけり  
     
        「うつつ」という言葉が使われている歌の一覧については 647番のページを参照。

 
( 2001/11/28 )   
(改 2004/01/14 )   
 
前歌    戻る    次歌