Top  > 古今和歌集の部屋  > 巻四

       寛平の御時きさいの宮の歌合せのうた 藤原菅根  
212   
   秋風に  声を帆にあげて  くる舟は  天の門渡る  雁にぞありける
          
     
  • 天の門 ・・・ 空の歌語
  藤原菅根(すがね)は855年生れ、908年没、没年五十四歳。884年文章生、891年少内記、894年大内記、897年七月従五位下、十一月従五位上、902年正五位下、903年従四位下、906年従四位上、908年参議。菅原道真の左遷(901年)に加担したとされ、その死は道真の怨霊の祟りの幕開けとされるが、事実は不明。古今和歌集に採られているのはこの一首のみ。

  歌の意味は、
秋風を帆に受けてやってくる舟は、空を声を上げて渡る雁であった、ということ。 "声を帆にあげて" という表現は、菅根のオリジナルか。 "声を" とあるのは、漢詩で雁の声を 「櫓」の音に譬えるものがあるのをふまえてのことで、イメージ的には「翼を帆に上げて櫓の音を響かせて渡ってくる舟」ということだろう。 「帆」という字を出すことにより、スムーズに滑ってゆく感じが強く出ている。また、この歌は詞書にある通り 「寛平御時后宮歌合」に出されたものだが、そこでは、

    秋風に  声を帆にあげて  ゆく舟は  天の門渡る  雁にぞありける

となっている。「ゆく舟」の方が 「天の門渡る」ということからは自然なような気がし、「くる舟」ではイメージ先取りにより 「天の門渡る」という言葉が無駄になっているように見えるが、やはり秋風にのって雁がくるということを優先させて変更したものか。一種のデフォルメと見ることもできる。 「秋風」を詠った歌の一覧は 85番の歌のページを参照。

  「〜にぞありける」という表現を使った歌の一覧は 204番の歌のページを参照。

 
( 2001/12/04 )   
(改 2004/03/11 )   
 
前歌    戻る    次歌