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       題しらず 読人知らず  
111   
   駒なめて  いざ見にゆかむ  ふるさとは  雪とのみこそ  花は散るらめ
          
     
  • 駒なめて ・・・ 馬を並べて (並む)
  
馬を連ねてさあ見に行こう、「ふるさと」はまさに雪のように花が散っているだろうから、という歌。当時の馬は今のサラブレッドのように細く美しい馬ではなく、 "駒なめて" という感じからはゆっくりと走りながら遠くの花の見物をしよう、という雰囲気もうかがえるが、ここではあえて、五、六騎の馬が雪のように降る桜の下を駆け抜けてゆくような爽快感のあるイメージでとらえてみたい。

  "ふるさと" は「今では懐かしい場所」ということだが、90番の歌からは奈良の都を指しているようにも思え、あるいは 321番の読人知らずの歌や、325番の坂上是則の歌の 「ふるさと−吉野の山−雪」というイメージから、より南の吉野の山の麓あたりとも考えられる。また、この歌は「伊勢物語」にもないので何の根拠もない想像だが、ここに惟喬親王や在原業平らの姿を見るとすれば 「ふるさと」を渚の院と思えなくもない。その一方で、元永本などの伝本には、この歌の作者を藤原良房(=前太政大臣)とする左注があるそうであるが、そちらも例の「或人のいはく」というもので、これといった裏付けはないようである。

  さて、この歌の続きとして考えるわけにはいかないが、 "駒なめて" 花を見に行こうと言っているのに対し、「駒とめて」水に映る影を見よう、と言っている次の 「ひるめのうた」を駒つながりで見ておきたい。

 
1080   
   ささのくま  ひのくま川に  駒とめて   しばし水かへ  かげをだに見む
     
        「駒」(=馬)を詠った歌の一覧は次の通り。

 
     
111番    なめて  いざ見にゆかむ  読人知らず
739番    のあし折れ  前の棚橋  読人知らず
892番    もすさめず  かる人もなし  読人知らず
1045番    我が身は春の  なれや  読人知らず
1080番    ひのくま川に  とめて  読人知らず


 
( 2001/11/20 )   
(改 2004/02/22 )   
 
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