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       題しらず 読人知らず  
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   耳なしの  山のくちなし  えてしがな  思ひの色の  下染めにせむ
          
     
  • 下染め ・・・ 本染めの前に発色を良くするために先に染めておくこと
  
耳なし山のクチナシの実が欲しいものだ、それで誰にも知られぬ思いを染めるための下染めにしたい、という歌。 「耳なし山」は、現在の奈良県橿原(かしはら)市木原町にある耳成山。

  クチナシの実から染められる色は黄色である。 "思ひの色" は 「火の色」あるいは 「緋の色」に掛けられていて、その色に染めるために、クチナシの実の色で 「下染め」をしたいということである。 
「耳なし」にある 「口なし」ということで、誰にも知られないだろう、ということを言っている。

  "えてしがな" は 「得+てしがな」で、「手に入れたいものだ」という意味。 「てしがな」は願望の終助詞「しか」(=しが)を中心に 「て+しが+な」という連語である。この願望の終助詞「しか」を使った古今和歌集の歌の一覧は 1097番の歌のページを参照。

  また、「てしがな」という言葉は、「竹取物語」の次のような文章に出てくるものが有名である。

 
     
世界の男、貴(あて)なるも賤しきも、いかでこのかぐや姫を得てしがな見てしがな、と音に聞き愛でて惑ふ。


 
( 2001/11/28 )   
(改 2004/02/16 )   
 
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