Top  > 古今和歌集の部屋  > 巻十四

       題しらず 読人知らず  
731   
   かげろふの  それかあらぬか  春雨の  降る日となれば  袖ぞ濡れぬる
          
     
  • かげろふ ・・・ 地上からゆらゆらと上がる水蒸気 (陽炎)
  
ほとんど来ないあなたの姿は陽炎なのかどうなのか、そう思いながら待っている忘れられた私は、袖が春雨のように濡れています、という歌。言葉遣いが面白い歌である。

  "降る日となれば" には 「古人(ふるひと:=もう縁が切れた過去の人)なれば」が掛けられており、意味的には 「春雨が降る日になると、袖が濡れる」という原因結果のつながりはなく、「春雨」は 「ふる」を導くと共に、袖を濡らすものとしての縁語として使われているのであろう。 「春雨」を詠った歌の一覧は 88番の歌のページを参照。

  また、 "かげろふ" は自分の様子を指しているとも考えられなくもないが、 "それかあらぬか" という感じからすると、相手を指しているものと見てよいだろう。 「それかあらぬか」という言葉を使った歌としては、159番に「郭公 それかあらぬか 声のかはらぬ」という読人知らずの歌がある。

 
( 2001/12/06 )   
(改 2004/02/26 )   
 
前歌    戻る    次歌