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       返し 在原業平  
646   
   かきくらす  心の闇に  惑ひにき  夢うつつとは  世人さだめよ
          
     
  • かきくらす ・・・ 一面を暗くする
  この歌は一つ前の次の歌に対する返しで、その歌の詞書では「斎宮なりける人」と密かに会って後、という状況が説明されている。

 
645   
   君やこし  我や行きけむ  思ほえず  夢かうつつか  寝てかさめてか
     
        歌の意味は、昨夜のことは、真っ暗な心の闇に惑ったばかりで確かなことは言えません、夢だったのか現実だったのかそれは世の人に決めさせましょう、ということ。前の歌の詞書に 「思ひをりける」とあることに従えば、その 「心の闇」はもう二度と逢えないかも知れない今もまだずっと続いているというようにも見える。 「闇」という言葉を使った歌の一覧は 39番の歌のページを参照。 "惑ひにき" の 「にき」は 「に+き」で、完了の助動詞「ぬ」の連用形+過去の助動詞「き」の終止形。この 「にき」は 226番の遍照の歌などでも使われている。

  普通に考えれば 「斎宮との密会」はタブーであり、それがこうして勅撰和歌集に入っているということは、当時すでに物語としてカプセル化されていて安全だったということだろうか。夢か現実か嘘か真か読む人が決めてくれ、と物語の中の人物が読者に向かって言っているような感じでもある。

  「うつつ」という言葉が使われている歌の一覧については 647番のページを参照。

 
( 2001/08/06 )   
(改 2004/03/09 )   
 
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