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       題しらず 僧正遍照  
226   
   名にめでて  折れるばかりぞ  女郎花  我おちにきと  人にかたるな
          
        その名前を愛らしく思って折っただけなのだ、オミナエシよ、私が堕落したと人に言いふらすな、ということだが、わかりやすいようでわかりにくい歌である。

  一見、折っただけでそれ以上のことは何もしなかったのだから、摘み取って持って帰った後、私が堕落したなどと言うなよ、ということのように見えるが、それにしては "おちにき" という言葉が唐突である。また、「女(をみな)」という名に惑わされて折ったのだとすれば、それがそもそも堕落したということで、そのことを人に言いふらすな、とも見えないことはないが、そうすると今度は "折れるばかりぞ" の 「ばかり」という部分と合わなくなる。

  仮名序の古注では、「嵯峨野にて馬より落ちてよめる」としていて、これは "おちにき" からの連想でのたわいのない戯言のように見えるが、意外と、馬から落ちてあたりのオミナエシをへし折ってしまった、という状況とすると意味が通りやすい気もする。つまり 「このあたりのオミナエシが折られているのは、名前を愛でて手折ったことにして、後からこの道を通りがかる者に僧正が馬から落ちたなどと、決して漏らしてはいけないぞ」という感じか。そこに 「落ちる−堕る」を含めていると見ればつじつまが合う。いずれにしても単なる秋のオミナエシの歌と見るのはむずかしい歌である。

  また、「馬」と 「折る」と言えば、恋歌四の次の読人知らずの歌が思い出される。

 
739   
   待てと言はば  寝てもゆかなむ  しひて行く  駒のあし折れ   前の棚橋
     
        "おちにき" の 「にき」は 「に+き」で、完了の助動詞「ぬ」の連用形+過去の助動詞「き」の終止形で、次のような歌でも使われている。

 
     
226番    女郎花 我おちにきと 人にかたるな  僧正遍照
619番    心は君が 影となりにき  読人知らず
646番    かきくらす 心の闇に 惑ひにき  在原業平
700番    かく恋ひむ ものとは我も 思ひにき  読人知らず
973番    うきめをみつの 海人となりにき  読人知らず


 
( 2001/10/23 )   
(改 2004/01/04 )   
 
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