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       題しらず 読人知らず  
627   
   かねてより  風に先立つ  浪なれや  あふことなきに  まだき立つらむ
          
     
  • かねてより ・・・ (何かが起こる)前から
  • まだき ・・・ 早くも
  
風が吹くより先に浪が立つようなものか、逢ってもいないのに早くも噂になっているようだ、という歌。火のない所に煙が立ったというような意味か。

  普通は 「風の音」を噂に譬えるが、この歌では 「風−噂」では意味が通らない。風が吹いて浪が騒ぐ、という物事の因果関係の譬えに使っているだけである。また、この歌には 「なき名」という言葉は使われていないが、事実がなくて立つ噂ということで 「なき名」の歌と考えられ、この後に四首続く 「なき名」の歌のはじまりと見ることができる。

  ただ、見方によってはこの歌は一つ前の 626番の在原元方の「あふことの なぎさにしよる 浪なれば」という歌に対する返しに見立てて置かれたものとも考えられる。つまり、元方の歌が 「逢えなくて波のように恨みて(=浦見て)立ち返った(=帰った)」と言っているのを、逢ってもいないのに「恨みて立ち返る」というあなたは、風より先に起きた波のようなもの、とあしらっている女性の歌のようにも見える。その場合は "まだき立つらむ" が指しているのは 「なき名」でないということになるが、その解釈はあまり直感的にわかりやすいものとはいえない。

  恋歌ではないが、次の布留今道(ふるのいまみち)の歌も風と波を使っていて、どことなく雰囲気がこの歌と似ている。

 
946   
   知りにけむ  聞きてもいとへ  世の中は  浪の騒ぎに    風ぞしくめる  
     
        「かねて(予ねて)」という言葉を使った歌の一覧は 253番の歌のページを参照。

  また、「〜なれや」という言葉を使った歌の一覧は 225番の歌のページを、「まだき」という言葉を使った歌の一覧は 763番の歌のページを参照。

 
( 2001/10/25 )   
(改 2004/02/26 )   
 
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