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       題しらず 紀貫之  
587   
   まこも刈る  淀の沢水  雨降れば  常よりことに  まさる我が恋
          
     
  • まこも ・・・ 真菰 (マコモ:イネ科の植物)
  • 沢 ・・・ 水たまり
  
真菰を刈る 「淀の沢水」が雨が降ると増水するように、雨の日にはことに恋しさがつのる、という歌。この歌の「淀」も 759番の歌に 「山しろの 淀のわかごも」と詠われている淀川流域と考えてよいだろう。桂川と宇治川が合流して淀川となるあたりか。現在も京都府京都市伏見区淀本町に 
「淀」という京阪本線の駅がある。

  古今和歌集の中で他に "沢水" という言葉を使った歌はないが、次の忠岑の 「かたの」の物名に 「沼水」を使ったものがある。 「交野(かたの)」は現在の大阪府枚方市・交野市のあたりで、淀川に注ぐ天野川が流れていて、淀川にも近い。

 
462   
   夏草の  上はしげれる  沼水の   行く方のなき  我が心かな
     
        雨が降って増水するということでは、829番の小野篁の「泣く涙 雨と降らなむ わたり川」という歌が有名である。この貫之の歌では(少なくとも表向きは) 「涙」が増さるという方向には持っていっていないが、617番の藤原敏行の「つれづれの ながめにまさる 涙川」という歌に通じるようなところもある。また、「雨に想う恋」ということでは 616番の業平の「春のものとて ながめくらしつ」という歌も思い出される。

 
( 2001/11/26 )   
(改 2003/12/29 )   
 
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