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       題しらず 読人知らず  
513   
   朝な朝な  立つ河霧の  空にのみ  うきて思ひの  ある世なりけり
          
     
  • 朝な朝な ・・・ 毎朝
  
毎朝のように立つ河霧が宙に浮かんでいるように、相手の気持ちに確信を持てず中途半端な状態の思いを持って過ごす世の中である、という歌。 「うきて思ひのある世」を 「憂き世」と見れば厭世の歌に見える恋歌である。相手の気持ちがわからず不安な気持ちを表したものだろう。

  一つ前の次の歌で 「恋をし恋ひば」(=とにかく恋しい気持ちを重ねてゆけば)と言っているのに対し、そうは言っても "朝な朝な" こういう状態では、松がしっかり根をはるような確かな恋は望めない、と言っているようでもある。

 
512   
   種しあれば  岩にも松は  おひにけり  恋をし恋ひば   あはざらめやは
     
        「空にのみ」という表現は、業平の 785番の「行きかへり 空にのみして ふることは」という歌にもあるが、次の躬恒の歌がこの歌の感じに近い。恋歌の中で 「空」という言葉を使っている歌の一覧は 481番の歌のページを参照。

 
481   
   初雁の  はつかに声を  聞きしより  中空にのみ    物を思ふかな  
     
        また、次の読人知らずの歌は、この歌をより一般的に厭世の歌にしたような感じである。

 
935   
   雁の来る  峰の 朝霧    晴れずのみ    思ひ つきせぬ  世の中の憂さ  
     
        「朝な朝な」という言葉を使った歌の一覧については 16番の歌のページを参照。

 
( 2001/11/20 )   
(改 2004/02/13 )   
 
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