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       題しらず 読人知らず  
503   
   思ふには  忍ぶることぞ  負けにける  色にはいでじと  思ひしものを
          
        恋しいと思う気持ちに忍ぶ気持ちが負けてしまった、顔色には出すまいと思っていたのだけれども、という歌。はじめの 「思ふ」は、507番の「思ふとも 恋ふともあはむ ものなれや」という歌と同じく 「人を思ふ」ということであり、それを後半でもう一度普通の意味で "思ひしものを" と繰り返して歌にリズムを作っている。

  この歌の 「忍ぶること」は、次の読人知らずの歌と同じように 「忍ぶ」であるが、「しのぶ」は 200番の「君しのぶ 草にやつるる ふるさとは」という歌のように 「偲ぶ」であることもある。

 
519   
   忍ぶれば   苦しきものを  人知れず  思ふてふこと  誰にかたらむ
     
        「忍ぶ」はもともとは上二段活用の自動詞で「人目を避ける」「我慢する」ということで、「偲ぶ」はもともと四段活用の他動詞で 「思い慕う」「なつかしむ」「賞賛する」という意味である。それが平安時代から 「忍ぶ」も 「偲ぶ」も上二段・四段のどちらの活用もするようになったため、文法的な活用形の区別により 「しのぶ」を 「忍ぶ」か 「偲ぶ」かを判断することは難しい。

  ただ、そもそも終止形は同じなので、例えば 505番の読人知らずの「あさぢふの 小野のしの原
 しのぶとも」という歌のように 「とも」が前に終止形をとるような場合、意味は内容によって判断するしかなく、しかもその歌が 「しのぶ」に 「忍ぶ」と 「偲ぶ」の両方を掛けたような使い方であるので、ややこしい。 「しのぶ」という言葉を使った歌の一覧は、その 505番の歌のページを参照。

 
( 2001/11/20 )   
(改 2004/03/09 )   
 
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