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       春日の祭りにまかれりける時に、物見にいでたりける女のもとに、家をたづねてつかはせりける 壬生忠岑  
478   
   春日野の  雪間をわけて  おひいでくる  草のはつかに  見えし君はも
          
     
  • はつかに ・・・ わずかに、かすかに
  詞書の意味は、春日大社の祭りに出向いた時に見物に出ていた女のもとに、家をたずねて贈った、ということ。 「家をたづねて」が、「家は何処と聞いた」ということなのか、「家を探し出して」ということなのか、「その家まで訪ねていって」ということなのかはわからない。恐らく忠岑がその祭りに出向いたのは勤めとして行ったのであろう。わざわざ 「家をたづねて」と書いてあることは、任務中にさぼって歌を贈ったわけではない、という言い訳のように見える。

  歌の意味は、言葉どおりで、
春日野の雪間を分けて生えてくる草の合間にわずかに見えた君よ、ということ。 「草のはつかに 見えし」というのは、明らかに 476番の業平の歌を意識してのものであろう。 「春−雪−若草」と出てくる言葉のイメージは爽やかだが、「雪間をわけて おひいでくる草」では丈が低すぎて、まるで女の足元にからみつくようなローアングルの視線が、草の影から覗いているストーカーのようにも見える。恐らく忠岑としては 12番の源当純の「うち出づる浪や 春の初花」というようなことを言いたかったのだったのだろうが。

  "君はも" で使われている詠嘆の 「はも」は、春日野ということで古い都(平城京)をイメージしたものだろうか。どことなく古くささを感じさせる。古今和歌集の中で他に 「はも」が使われている例は、次の二つで、どちらも読人知らずの歌である。

 
891   
   笹の葉に  降りつむ雪の  うれを重み  もとくだちゆく  我がさかり はも  
     
1072   
   水くきの  岡のやかたに  妹とあれと  寝ての朝けの  霜の降り はも  
     

( 2001/12/10 )   
(改 2003/12/16 )   
 
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