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       越へまかりける人によみてつかはしける 紀利貞  
370   
   かへる山  ありとは聞けど  春霞  立ち別れなば  恋しかるべし
          
        帰ってくるという名を持つ 「かへる山」が行く先にあるとはいえ、別れてしまえば必ず恋しくなるでしょう、という歌。 "春霞" という言葉を入れているので春の別れであろう。 31番の伊勢の「春霞 立つを見捨てて ゆく雁は」という歌も思い出される。 「春霞」を詠った歌の一覧は 210番の歌のページを参照。

  「かへる山」は、琵琶湖の北に位置する敦賀湾の東岸の五幡(いつはた)・杉津あたりから、その東にある今庄(いまじょう)に抜けるあたりの地域の山と言われている。都から越前の国府のあった武生(たけふ)の方に行くための通り道にあったのであろう。万葉集・巻十八4055番の大伴家持の次の歌もこのあたりを指していると思われる。

    可敝流廻(かへるみ)の 道行かむ日は 五幡の 坂に袖振れ 我れをし思はば

  古今和歌集の中で、この他に 「かへる山」を使った歌としては、次の躬恒の歌と在原棟梁(むねやな)の歌がある。

 
382   
   かへる山   なにぞはありて  あるかひは  きてもとまらぬ  名にこそありけれ
     
902   
   白雪の  八重降りしける  かへる山   かへるがへるも  老いにけるかな
     
        "恋しかるべし" の 「恋しかる」は 「恋しくある」ということの短縮形。同じような 「〜かるべし」という表現を使った歌の一覧については 270番の歌のページを参照。

 
( 2001/11/27 )   
(改 2004/02/26 )   
 
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