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       題しらず 読人知らず  
51   
   山桜  我が見にくれば  春霞  峰にもをにも  立ち隠しつつ
          
        自分が見に来ると春霞が峰にも尾にも広がって山の桜を見せてくれない、という文字通りの歌である。 "山桜" と "春霞" の二つの名詞が目につくのは、「山桜−我が見にくれば/春霞−峰にもをにも 立ち隠しつつ」と 「を/が」が切られているためである。

  似たようなかたちの歌として、次の貫之の歌を並べてみたい。 "山桜" と 「桜花」の違いはあるが、「春霞」との順序が入れ替わっている。一方は咲き始めた山桜であり、もう一方は散ってゆく桜を詠ったもので、貫之の歌がこの読人知らずの歌をふまえたものとすると、言葉のずらし方、意味のずらし方に面白いものがある。またそれほど貫之をひいき目に見なくとも、二つを並べることにより、この歌の "山桜" という言葉が引き立って見える。

 
79   
   春霞   何隠すらむ  桜花   散る間をだにも  見るべきものを
     
        「春霞」を詠った歌の一覧は 210番の歌のページを、「立ち隠す」という言葉を使った歌の一覧は 
1038番の歌のページを参照。

 
( 2001/11/19 )   
(改 2004/02/26 )   
 
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