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       題しらず 読人知らず  
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   忘られむ  時しのべとぞ  浜千鳥  ゆくへも知らぬ  跡をとどむる
          
     
  • 浜千鳥 ・・・ チドリの歌語
  
忘れられた時に今を偲べと、どこへ行ったかわからない浜千鳥がその足跡をとどめるように、ここにこうして書き残しておく、という歌。

  一般的には、仮名序にある 「鳥のあと久しくとどまれらば」などの表現から、文字を書くことを鳥の足跡に譬えた歌と解釈されている。内容は少しわかりづらいが、歌の調べは整っている。はじめの "忘られむ" は、「忘ら+れ+む」で、四段活用の「忘る」の未然形+受動を表す助動詞「る」の未然形+推量の助動詞「む」の連体形。今はまだ覚えているだろうが、そのうち 「忘れられるだろう」ということ。この初句がなければ、「浜千鳥」そのものを詠った歌のようにも見える。

  「しのぶ」は、ここでは 「忍ぶ」ではなく 「偲ぶ」であろう。 「しのぶ」という言葉を使った歌の一覧は 505番の歌のページを参照。 「ゆくへ」という言葉を使った歌の一覧については 80番の歌のページを参照。

  この歌は雑歌下に置かれているが、恋歌の中で 「忘れられてしまう」ということを詠んだ歌には、恋歌五に次のような読人知らずの歌がある。

 
754   
   花がたみ  目ならぶ人の  あまたあれば  忘られぬらむ   数ならぬ身は
     

( 2001/11/27 )   
(改 2004/03/10 )   
 
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