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       題しらず 平貞文  
823   
   秋風の  吹き裏返す  くずの葉の  うらみてもなほ  うらめしきかな
          
     
  • くず ・・・ マメ科のつる草の名前 (葛:=クズ)
  
秋風が吹いて裏返すクズの葉の裏、それが次々と「裏見」せるように、恨んでもまだ恨めしいことかな、という歌。 三句目までは序詞である。

  この歌では、まず "吹き返す" という部分が目につく。言葉としては「吹き返す」の方が自然に思えるが、そうすると主語は 「葉」ではなく 「風」となり、「返す」が後ろにくると、450番の高向利春(たかむこのとしはる)の 「返す返すぞ 露は染めける」という歌のように 「返す返す」と続けたくなる。その結果出てくる歌は 「くずの葉の−裏吹き返す−秋風の−返す返すも−うらめしきかな」というような感じになるだろうが、これを元の貞文の歌と比べてみると、"うらみてもなほ うらめしきかな" という部分の質量感が効いていることがわかる。 「秋風」を詠った歌の一覧は 85番の歌のページを参照。

  この貞文の歌は、恐らく 171番の読人知らずの「うらめづらしき 秋の初風」という歌を発想の背景としているのだろうが、そこから言葉を選び、並べてゆく過程が見えるようで面白い。

  「葛(クズ)」を詠った歌としては、262番に「神のいがきに はふくずも 秋にはあへず うつろひにけり」という貫之の歌もある。

 
( 2001/12/06 )   
(改 2004/03/11 )   
 
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