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       題しらず 紀貫之  
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   しのぶれど  恋しき時は  あしひきの  山より月の  いでてこそくれ
          
        逢いたいという気持ちを抑えていても、どうしても恋しい時は、山から月が出るように出てきてしまう、という歌。この歌の 「しのぶ」は "しのぶれど" とあるので 「偲ぶ」ではなく 「忍ぶ」である。 「しのぶ」という言葉を使った歌の一覧については 505番の歌のページを参照。

  "いでてこそくれ" は、言葉としては 「出でて+こそ+くれ」で 「くれ」は 「来(く)」が 「こそ」の係り結びで已然形になったものである。よって 「出で来」と同じ意味で、出てくるということ。気持ちのことを言っているという解釈もあるが、 884番の業平の「山の端逃げて 入れずもあらなむ」という歌と同じように行動を表していると見てよいだろう。

  拾遺和歌集・巻四224に採られた次の貫之の有名な歌のはじめの二句を、一つの歌に伸ばしたような感じの歌である。

    思ひかね  妹がり行けば  冬の夜の  河風寒み  千鳥鳴くなり

 
( 2001/10/29 )   
(改 2004/01/02 )   
 
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