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       やよひばかりに物のたうびける人のもとに、また人まかりつつ消息すと聞きてつかはしける 紀貫之  
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   露ならぬ  心を花に  置きそめて  風吹くごとに  物思ひぞつく
          
        詞書の「物のたうびける」は 「物・のたうぶ(宣ぶ)」で 「のたまふ」と同じ 「言ふ」の尊敬語。何故ここに尊敬語が入っているかはよくわからない。相手の女性が身分が高かったと見る解釈もある。ただ、「古今和歌集全評釈(中)」 (1998 片桐洋一  講談社 ISBN4-06-205980-0) では、これは尊敬語ではなく、詞書の書き手の、読者に対する敬意を表したものか、とされている。 「また人」とは 「別の人」ということ。つまり詞書は 「三月のころ親しくしていた女性に別の男がたびたびやって来て手紙を渡していると聞いて、書き贈った」歌ということ。

  
露のように浅い心ではありませんが、あなたを思い初めてから、風の噂で聞くたびに、物思いが心から離れません、という歌。少しごちゃごちゃしていて面倒な歌である。

  まず、"露ならぬ" に 「軽い気持ちではない」ということを掛け、すぐに今否定した 「露」を使って、「露が花に置いて色を染める−あなたを思い初める」とつなげ、「風−人の噂」の譬えにより、他の男との噂を責め、本来なら「思ひつく(=心がひかれる)」はずなのに「物思ひ(=悩み)」が 「つく」と結んでいる。

  「心を染める」ということについては、729番に「色もなき 心を人に 染めしより」という同じ貫之の歌があり、花に「思ひつく」という歌としては、仮名序にある「かぞへ歌」の例の「咲く花に 思ひつくみの あぢきなさ」という歌が思い出される。 「風吹く」という言葉を使った歌の一覧については 671番の歌のページを参照。

 
( 2001/10/01 )   
(改 2004/01/06 )   
 
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