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       寛平の御時きさいの宮の歌合せのうた 紀貫之  
572   
   君恋ふる  涙しなくは  唐衣  胸のあたりは  色もえなまし
          
        あなたが恋しくて流すこの涙がなければ、唐衣の胸のあたりは赤く燃え上がってしまうでしょう、という歌。 「思ひ」という言葉は使われていないが 「燃ゆ」という言葉で 「思ひ」の 「火(ひ)」を連想させ、それを涙の 「水」で消すという趣向である。また、「色もゆ」ということは 「色に出づ」(=明らかにする)を激しくしたような感じである。

   "もえなまし" は 「もえ+な+まし」で 「な」は完了の助動詞「ぬ」の未然形、反実仮想の助動詞「まし」の終止形。 「なまし」で一つの連語と考えられ、「〜してしまうだろう」という意味である。 「〜なまし」というかたちを持った歌の一覧は 63番の歌のページを参照。

  "君恋ふる 涙" ではじまる歌としては、同じ 「寛平の御時きさいの宮の歌合せのうた」で同じ恋歌二に置かれている次の藤原興風の 「澪標」(みをつくし)の歌がある。

 
567   
   君恋ふる    涙 の床に  満ちぬれば  みをつくしとぞ  我はなりぬる
     
        「〜なくは」という言葉を使った歌の一覧は 14番の歌のページを参照。

  また、この歌と同じく、三句目に 「唐衣」と置いている歌には次のようなものがある。

 
     
572番    君恋ふる 涙しなくは  唐衣  紀貫之
576番    いつはりの 涙なりせば  唐衣  藤原忠房
697番    敷島や 大和にはあらぬ  唐衣  紀貫之
808番    あひ見ぬも 憂きも我が身の  唐衣  因幡
865番    うれしきを 何につつまむ  唐衣  読人知らず
995番    たがみそぎ ゆふつけ鳥か  唐衣  読人知らず


 
        その他の 「唐衣」を詠った歌は次の通り。

 
     
375番    唐衣  たつ日は聞かじ 朝露の  読人知らず
410番    唐衣  きつつなれにし つましあれば  在原業平
515番    唐衣  日も夕暮れに なる時は  読人知らず
786番    唐衣  なれば身にこそ まつはれめ  景式王


 
        十五首続いた 「寛平の御時きさいの宮の歌合せのうた」のグループはここで終わりで、続いて貫之の歌がここから三首続く。

 
( 2001/10/25 )   
(改 2004/02/27 )   
 
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