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       題しらず 読人知らず  
549   
   人目もる  我かはあやな  花薄  などか穂にいでて  恋ひずしもあらむ
          
     
  • 人目もる ・・・ 人目を気にして避けるようにしている (人目守る)
  • あやな ・・・ 意味のない、理不尽な (あやなしの語幹)
  • などか ・・・ どうして
  
人目をはばかっている場合ではない、そんなことをしても何にもならない、この私もどうして花薄のように気持ちを明らかにして恋をしないのか、という歌。

  "恋ひずしもあらむ" は、「((恋ひ+ず)+しも)+あら+む」で、強調の副助詞「しも」は 「恋をしない」ということにかかり、この 「しも」がなければ「恋ひず+あら+む」から「恋ひざらむ」となり、二つ前の次の歌の 「恋ひざらめ」と同じかたちになる( 「め」は前に 「こそ」があるためで 「む」の已然形)。そして 「稲」「などか」「しも」という言葉が使われている点でも共通しているが、「などか」の位置によって、
  • などか+恋ひざらむ ・・・ どうして恋をしないのか
  • 穂にこそ+恋ひざらめ+などか ・・・ 表立って恋をしないけれど、どうして...
と歌全体としては意味が変っており、「薄の穂」「稲の穂」という使い分けも面白い。 「など/などか」という言葉を使った歌の一覧は 155番のページを参照。

 
547   
   秋の田の  穂 にこそ人を  恋ひざらめ    などか 心に  忘れ  しも せむ
     
        「花薄+穂」という組み合わせでは他に次のような歌がある。

 
242   
   今よりは  植ゑてだに見じ  花薄    穂にいづる 秋は  わびしかりけり
     
243   
   秋の野の  草の袂か  花薄    穂にいでて まねく  袖と見ゆらむ
     
653   
   花薄    穂にいでて 恋ひば  名を惜しみ  下ゆふ紐の  むすぼほれつつ
     
748   
   花薄   我こそ下に  思ひしか  穂にいでて 人に  結ばれにけり
     
        このうち上の二つは秋歌上に置かれているが、これだけ恋歌で 「穂に出づ」と使われているのを見ると、恋歌の風味を持っているようである。 「穂に出づ」という表現を使った歌の一覧は 243番の歌のページを参照。 「あやな(し)」という言葉を使った歌の一覧は 477番の歌のページを参照。

 
( 2001/08/17 )   
(改 2004/02/26 )   
 
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