Top  > 古今和歌集の部屋  > 巻十

       返し 壬生忠岑  
425   
   袂より  はなれて玉を  つつまめや  これなむそれと  うつせ見むかし
          
     
  • つつまめや ・・・ 包めるだろうか (反語)
  • うつせ見むかし ・・・ 移してごらん、そうすれば見てみよう
  この歌は一つ前の 424番の在原滋春(しげはる)の 「うつせみ」の歌に対しての返しであり、「
ウツセミむかし」の部分に同じく 「うつせみ」を含めている。 「空蝉」という言葉を使った歌の一覧は 
73番の歌のページを参照。

  歌の意味は、
袂より他に玉を包めるものはないのだから、さあその玉を袖に移してごらん、そうしたら私も見てみよう、ということで、ためらいがちな滋春の歌を煽っているものである。良く言えば元気付けているという感じか。

  歌の姿にしまりがなく、水辺で遊んでいる子供に生返事をしている親のような感じだが、古今和歌集に採られている忠岑の歌にはかなりムラがあって、時折次のような切れを見せるので侮れない。ある意味、天才肌と言ってよいのかもしれない。

 
625   
   有明の  つれなく見えし  別れより  暁ばかり  憂きものはなし
     
        「古今和歌集全評釈  補訂版 」 (1987 竹岡正夫 右文書院 ISBN 4-8421-9605-X) に指摘があるように、滋春の 「拾はば袖に  はかなからむや」 と、忠岑の "袂より はなれて玉を つつまめや" のやりとりには、556番の安倍清行の歌や、次の読人知らずの歌にあるように、玉を袖や袂に包んで大切に持つ、という表現がふまえられている。

 
400   
   あかずして  別るる 袖の   白玉を   君が形見と つつみてぞ 行く
     

( 2001/12/18 )   
(改 2004/02/24 )   
 
前歌    戻る    次歌