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       秋のうたとてよめる 坂上是則  
267   
   佐保山の  ははその色は  薄けれど  秋は深くも  なりにけるかな
          
     
  • ははそ ・・・ 木の名前。ナラ、コナラ、ブナ、カシワなど諸説ある。 (柞)
  坂上是則は生没年不詳、924年従五位下。古今和歌集には七首が採られている。

  
佐保山の 「ははそ」の葉の色は薄いけれど、秋は深まってきた、という歌。 「ははその色が薄い」とは、ナラなどの葉の黄色い色を指しているのか、黄葉(あるいは紅葉)が本格化していないことを指しているのか、あるいは霧がかかって薄っすらとして見えるのか、特定しづらい。この歌では 「薄い−深い」であるが、「薄い−濃い」を対比させたものとして、876番の友則の「蝉の羽の 夜の衣は 薄けれど」という歌と並べて見たい。

  この歌のシンプルさと余韻は、「なる」というつながりもあって、同じ是則の 325番の歌の「ふるさと寒く なりまさるなり」という歌と共通するものがあり、実はこの歌もすばらしい名歌であるような気がする。ちなみに、古今和歌集の中で 「なりにけるかな」という言葉を使った歌は次の通り。

 
     
267番    秋は深くも  なりにけるかな  坂上是則
778番    久しくも なりにけるかな  住の江の  読人知らず
853番    しげき野辺とも  なりにけるかな  御春有輔


 
        また詞書には書かれていないが、この歌は現存する 「左兵衛定文歌合」(905年)に残っている。そして現存する 「亭子院歌合」(913年)にあり、「続古今集」(1265年)の巻一159番に是則のものとして採られている次のような歌がある。

    水底に しづめる花の 影見れば 
春は深くも なりにけるかな

  これはなかなか微妙である。四句目が春に変わっているだけでなく、作りが異なるので比較はしづらいが、やはり 「秋」の歌の方がシンプルで好ましい。

 
( 2001/11/13 )   
(改 2003/11/18 )   
 
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