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       人の家にうゑたりけるさくらの、花咲きはじめたりけるを見てよめる 紀貫之  
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   今年より  春知りそむる  桜花  散ると言ふことは  ならはざらなむ
          
        今年から咲くことを覚えた桜の花は、散るという習慣には慣れないでほしい、という歌。

  新入生を迎えた校長の挨拶か、赤ん坊の誕生祝いのような歌だが、「桜が咲き始めた」ことを 「今年はじめて咲く桜」を詠うことでより新鮮に見せている。後半は 「散るな」ということをストレートに言わず、「新しくこの世に生まれ出たものよ、世の常には馴染まないでほしい」という筋の中に置いている。こうした言い回しは、ハレの場で歌を詠む歌人たちには得意なものだったであろう。

  また、木に対して枯れるな、とせずに、花に対して散るなと言う言い方は、秋の菊に 「花こそ散らめ  根さへ枯れめや」と言う 268番の業平の歌の延長線上にあるようにも思われる。

 
( 2001/11/14 )   
(改 2003/10/12 )   
 
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