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       女友だちとものがたりして別れてのちにつかはしける 陸奥  
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   あかざりし  袖の中にや  入りにけむ  我がたましひの  なき心地する
          
        まだ話足りずに別れたので、私の魂は袖の中に入ってしまったのでしょうか、あなたと別れた今はでは、まるで魂が抜けたかのような気がします、という歌。

  陸奥(みちのく)は生没年不詳、古今和歌集に採られているのはこの一首のみ。従五位下・橘葛直の娘とされる。葛直は大和介(881年)[奈良県]や石見権守(894年)[島根県]に任じられたようだが、陸奥の国[宮城・岩手・青森県]の国司になったという記述はない。

  袖に玉を包むという 400番の読人知らずの「あかずして 別るる袖の 白玉を」という歌では 「白玉」は涙の譬えだが、ここではそれを 「玉−たましひ」に替えている。 「あかず」という言葉を使った歌の一覧は 157番の歌のページを参照。また 「たましひ」という言葉を使った他の歌としては 571番に読人知らずの「恋しきに わびてたましひ 惑ひなば」という歌がある。

  「袖」の持ち主が作者であるか相手であるか少しわかりづらいが、満足せずに別れたので、魂が相手の袖の中に入って留まっているのか、という意味と見るのが自然だろう。

 
( 2001/11/22 )   
(改 2004/02/11 )   
 
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